でもここからは、不安に思ったほどにはあっち側に行きすぎておらず、少し安心した。つぶやきシローに1ヴァース任せてしまう無茶苦茶なギャグラップ「コロンブス」や、らしいスペースサウンドの下でドラムが跳ねる「Dreamer Come True」あたりは、昔からの遊び心と一般受けを折衷した感じでまだ聴ける。まぁ、それでも昔に比べれば妥協している感は拭えず、あくまでも相対的な評価においてなのだけれど。
自分たちのサウンドと、王道のHIPHOPネタをまんまぶつけてブレンドしてみた「ALIEN21(BLUESBREAKER PLUS ALPHA MIX)」が凄く聴き辛い一方で、両者を小節ごとに分けてキックしていく「仏恥義理(CUT-O-BEE MIX)」では見事に合わせる辺り、「テクノ遊ばしてるだけじゃなくてこんなことも出来んだよ」というメッセージが伝わってくるようで、その後の成りあがりを見るに頼もしい限り。彼らのスタイルがデビューから一貫していること、そしてその源にはきちんと先人たちが築いたHIPHOPが流れていること。それを確認出来るだけでも、今からでも意義深い作品だろう。
"反対側から見ればこっちが表だ" という宣言がカッコ良い「MESS」や、微妙なHOOKを除けばラップは一番奔ってる仙人掌との「POPS」など、サクッとテンプルにクリティカルを見舞って帰っていくような、ダークネスな暴力性を持ったドープチューンが13曲間にひしめく。シャウトで焦らしに焦らしてから完全にキメて帰るBESがメシアすら食う勢いの「No More Comics」も、ハイライトたるところできっちりそうせしめていて、完全に狙い通りに計画を進め切っている一枚。
非常に誇り高いアルバム。ラッパーを大量に呼び込んでのトラックメイカーのアルバムは、およそ2種類に分けることが出来る。ひとつは、トラックメイカーが己のサウンドの領分を貫き通すもの。もう一方は、トラックメイカーが各参加ラッパーの長所を活かすべくサウンドをそれに合わせるもの。前者の例としてYakko for Aquarius『My Hood Iz...』、後者の例としてDJ HAZIME『Ain't No Stoppin' DJ』などが挙げられる。
ラップではMr.OZに一歩譲るEL LATINOも、盟友Ms.Oojaを3曲に連れ込み、相性の良さをもって対抗している。「Only your Love」なんかは、特に彼女のコーラスの力が大きい。ウェッサイ調のクルージンソング「This is for the hood」での心地良さも、このジャンルのHIPHOPにしか醸し出せない魅力に長けたハイセンスなものだ。
Mr.OZのソロに至ってはもうソロ1stよりも元気で、本作での彼の担当曲には完全に外れが無い。「It's been too long」でのリリックの聴かせ方を心得たフロウ回しなどもさることながら、「O FIVE TWO」は凄い。タイトル通りの地元への感謝ソングと言えばチープだが、アコーディオンの1ループに支えられて本気の言葉を吐くMr.OZの力量を改めて実感する素晴らしい1曲。この頃からの彼は、あの声にも関わらず詩を普通に聴き取れるラップを出来ているのが凄い。また、ヴァースの最後の "Hello 052 What's Up? Homiez" あたりは、こうして書き起こすと全然大した詩じゃないんだけれど、実際に聴くとリズムの取り方がめちゃくちゃカッコ良い。
EL LATINO「The later for...」のリリックにちょっと引っかかるところがあったりもしたけれど、最後にはEL LATINO、Mr.OZの2人で組んで「Between the bright and the dark」にて文句なくバッチリ締める(もうイントロから最高!!)あたりも含めて、ほとんど隙のない作品。この辺の名古屋HIPHOPにおけるひとつのクライマックスはEQUAL『ごうだつゲーム』だと思っているけれど、それに比肩するミニアルバムと言ってもあながち過言ではあるまい。