リミキサー達によるラップを活かそうという試みは、作品の随所に感じられる。ディスコ調のトラックにラップのピッチを上げて乗せることでマイクリレーものとしての疾走感を演出した「FRESH」、抜きに抜いた音でラップを浮き出たせ、TRINA「REACH OUT」のようにエレクトロな電話プッシュ音をアクセントに敷くことで冗長感をなくした「4 MY HU$TLERZ」など。逆に、抜き過ぎた原曲のトラックが、6分超の長さを切り抜けられなかった自分語りなラップと相まって退屈な曲にしてしまっていた「REMEMBER...」は、ヴァース部分でドラムパターンを増やすことでフラット感を打ち消そうとしている。いずれもやっぱりラップが…と不満が出そうにはなる。しかし、トラックが後付け的に不足部分を補完してくれた結果、トラックだけがてっぺん獲りそうな勢いでラップの遥か先を走っていたアルバムよりもずっとラップミュージックとしては楽しめると思う。
1.0422×0859 Produced by RUN-BIRD 2.Change the life Produced by KEMUI 3.セーヌ河の奇跡 Produced by Stormy Monday 4.DREAM Produced by MASS-HOLL(Medulla) 5.頂点か暴言 Produced by Stormy Monday 6.skit1 Produced by Muzono 7.LOWPOP Produced by TSUNEO(BAACK SEAT CHILL) 8.手の平でダンス Produced by RUN-BIRD 9.遺言10 CIRCUS remix Produced by Rayzie-K 10.FOOTWORK Produced by MR.炭酸 11.Where is… Produced by Stormy Monday 12.skit2 Produced by Muzono 13.RAIN Produced by Rayzie-K 14.ナイトフェリー Produced by TSUNEO(BAACK SEAT CHILL) 15.Rollin' Day Produced by MR.炭酸 16.金木犀 Produced by FUNK入道 17.五感と対東京 Boogie remix Beat by DJ Kosuke and Stormy Monday
1.Report of a gun 2.Time is money,Life is game 3.Push Your Hands Up 4.4season~cruisin’winter~ 5.MODEL feat.來々 6.IDENTITIY 7.Wall Of Hate feat.LA BONO,K.K. for CALUSARI 8.skit# 9.Mr.Billy MeetsgunIII 10.Dear…feat.拳太for J-GREN 11.4Seasons: in early spring 12.Set the Table feat.RYUZOfor R-RATED 13.Sure Shot feat.YOUNG BERY 14.LAST SONG 15.G.U.N.~Ganxstaz Unusefull Nack~remixfeat.尾崎 陽子
★★★★★★★☆☆☆
名古屋でPhobia Of Thugのメンバーとして活動してきたMr.OZの1stソロアルバム。自身が主宰するBIGG MAC RECORDSより、2005年12月28日発売。
Phobia Of Thugを離れてのソロ作ということで、そのリリシズムはやや内向的な面に沈む。アグレッシヴなHIPHOPチューンの中で型にはまらない、自分なりの言葉を吐き出していたボースティング型ラッパーとしての魅力が味わえるのはYOUNG BERYとの相性が抜群な「Sure Shot」など、ごくわずか。それゆえ、onodubが多くを任されたトラック群もメロウで繊細な色彩を強め(それが悪いというわけでなく)、その意味で彼のデスヴォイスがボースティングによって迫力倍掛けの効果を発揮する場面も少ない。
それでも名古屋勢とは思えないほど品のあるクルーズチューン「4 Seasons : cruisin' in winter」や、その巧みな心理描写が「HIPHOP、ありがとう」というさんざ聴き尽した言葉に重みを持たせる「IDENTITY」(II-Jのプロデュース力はさすが!!)などを聴くと、言葉とその振り回し方をきちんと心得ている日本で数少ないラッパーであろうと実感する。
1.Motivation 2.V-Neck T 3.Workout 4.Party Too Much 5.End Of Summer feat.Luv-P 6.Bonafide feat.寿& BIG-T 7.Sweet Surrender 8.Why Did You Leave Me 9.Still Reppin' STC feat.Ensyu 10.100% Positive 11.It's Up To Me 12.This Is My Hustle
★★★★★☆☆☆☆☆
渋谷を中心に活動し、レーベル「STEEL THE CASH」を主宰するMC・YOUNG HASTLEの1stアルバム。2010年6月9日発売。
1.あの頃と今 Produced by YOUNG-G (おみゆきCHANNEL) 2.Still Run This Town feat. KTY Produced by BIG BEN (おみゆきCHANNEL) 3.Another day'z Produced by BIG BEN (おみゆきCHANNEL) 4.SUNDAY feat. WAX Produced by KURABEATS 5.Change Produced by FUNK入道 6.Restart Produced by KURABEATS 7.Who is the KING?? feat. DJ DICK Produced by YOUNG-G (おみゆきCHANNEL) 8.Freestyle feat. Dr.KITOU 9.Mr.Mr. Produced by BIG BEN (おみゆきCHANNEL) 10.New School feat. G-SWOOSH Produced by BIG BEN (おみゆきCHANNEL) 11.助言 feat. MMM,田我流 Produced by BIG BEN (おみゆきCHANNEL) 12.Birthday feat. CHIYORI Produced by ZIPSIES 13.楽園 Produced by おみゆきCHANNEL
★★★★★★★☆☆☆
stillichimiyaの一員・PONYの1stソロアルバム。2010年5月5日発売。
冒頭の「あの頃と今」で自分のルーツを辿ったのち、 "オレには夢しかねぇ" と締めて清々しく前を向くPONYの視線は、次の「Still Run This Town」以降、一気にサクセスストーリーの糸口すら無い地元に向けられる。「リアル」であることを大前提としたときに生まれる、あまりにも語るには取りとめの無い現実をそれでも音に乗せて歌う。それは凄く垢抜け無くてクールでやさぐれていないけれど、HIPHOPの根源的価値観に最も忠実なアプローチだ。
しかしPONYはそんなどうしようもない現実に呑まれるばかりの音楽であることをよしとしない。「Change」以降の中盤から、愚痴を飲み込んでラッパーとして前を向く。その意気込みが横滑りしたような「Who is the KING??」なんかは多少飛び道具的でもあるだろう。しかし "歌うことでどう変わるかわかんねぇけど、歌うぜ" と意志を固めて言葉を紡ぐ「Mr.Mr.」は、後ろ向きになりがちなこのスタイルを、あくまで前向きな生産手段として扱おうとする姿勢が清々しい佳曲だ。
1.THE SIX MILLION DOLLAR MAN -INTRO- 2.HIP HOP NAVY 3.WE GET MONEY 4.THE THEME OF SAMURAI RICHARD feat. TETRAD THE GANG OF FOUR 5.24 feat. JBM 6.EXCLUSIVE feat. B.D 7.RHYME RYDER feat. BIGZAM 8.SPREAD THE SHINE -FREE STYLE- feat. VIKN, SIMON, JASHWON 9.NO WONDER feat. SPERB 10.SURROGATED MOTHERSHIP -NEW YORK MIX- feat. SPERB, B.D 11.STREET ON FIRE feat. C.T, MIKRIS & DJ TY-KOH 12.CHOICE feat. t-Ace, WOODSMAN 13.ON TO THE NEXT feat. SPERB, MARIN 14.141 15.THE SIX MILLION DOLLAR MAN -OUTRO- 16. JACKIN' 4 BEATS REMIX feat.KGE,寿,RAW-T,JBM,MEGA-G,CHINO,VIKN,S.L.A.C.K,OJIBAH,林鷹
★★★★★★☆☆☆☆
NIPPS擁するTETRAD GANG OF FOURの一員としても活動するMC、VIKNが発表したミックスCDアルバム。2010年4月14日発売。
堅実でオーセンティックなラップスタイルはNIPPSと肩を並べて活動することになんら違和感を感じないほどに磨きあげられており、この世代でも有望株と言えるだろう。ただ、時代的な影響からもそのリリックには日本語として成立する言葉が求められる中で、それに迎合したVIKNのラップはやや威力を失いがちだ。伝えたいトピックもそう多くない中で、自ら言葉の偶発性をパンチラインに変換するスタイルを封印してしまっては、リリック面で聴き手をハッとさせることは難しくなる。残るはフロウで勝負する選択肢だが、リリックの力を差し引いて、節回しそれだけで何度も魅せることの出来るラッパーはそうそういない。TETRADアルバム収録「PARTNERS IN CRIME Pt.2」のヴァースでの "中々いそうで中々いない〜" の一連のラインなんかは奇跡的にリリックそのものよりもフロウでラップの威力を引き上げていたが、本作ではフロウであれほどカッチリハマったラインは作り出せていない。
上記の理由からも、言葉が明確な目的を持って吐き出された「141」を除いて、ソロ曲の威力はリリックを語り進めるごとに間引きされる一方だ。どちらかと言えば、VIKNの正統なラップスタイルがワンクッション置く役割を果たすことになる、客演との絡みの方が楽しい。さすがに「SPREAD THE SHINE」は、インパクト大なANARCHYや、近年稀なヴァース丸ごとパンチラインを達成した般若が偉大すぎる原曲には及ばない。しかしそれでも、トリを務めた般若とは正反対に冷徹に攻めるJASHWONのラップなど、メンバーの本気具合は伺える。それぞれ完全にBIGZAMやDJ TY-KOHの中二シャウトに食われてしまった「RHYME RYDER」や「STREET ON FIRE」もVIKNのラップを目的に聴かなければ楽しい。MARINが「No Diggity」のラインを丸々なぞる「ON TO THE NEXT」なんかも、遊び心として良いと思う。
MUROに強い憧れを抱くJBMの本作は、多様なトラックメイカーを呼び込みながらも、音はMUROの影響を感じさせる90年代を思わせるものに統一。その音の上で無理はせず、堂々といつものペースでラップするJBMの存在感は、客演で聴いたときよりもずっとデカかった。ソロマイカーとしてもガッツリやっていけるだけの力量があったんだなぁ。ブームバップサウンドの上で一定のリズムで言葉を吐くJBMのラップは、ともすれば単調だと切って捨てられるものになってしまうのだけれど、重量感のある声の迫力と、その堂々たる佇まいが実にカッコ良い。ヘヴィな声質のラッパーのソロ作はやたらにバラエティ感を高めることでしか聴かせられないのではと思っていたが、どっかり腰をおろして、やりたい音の上でやりたいラップだけする本作でのJBMは、ぶっとい幹のような安定感で、その一本気な姿勢が様になっている。「GET ON DA MIC」なんてなんら器用なことしてないのに最高だよ。
何度もタッグを組んでいる人材で固めた客演陣との曲もことごとく良い。中でも「OHSAMA KING」は、the sexorcistのアルバムに収録された大人気曲のオリジナル版とのことだが、リミックスに全く引けを取らないクオリティだ。やたらギラついた和風サウンドのカオス具合がいかにもMUROらしい。使い方次第で曲を高めも壊しもするMIKRISも「BROS」では絶好調。「Everybody Loves The Sunshine」を引用するあたりからの怒涛のヴァースでは、MIKRISのラップで盛り上がるという貴重な体験が出来る。