2011.04.09 Saturday
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1.TYPHOON 2.MEDIALIEN feat.GOKU 3.音の糸 feat.MIHO 4.BREAK POINT feat.AKEEM,DABO,GOKU,K-BOMB,ZEEBRA 5.ダブルコントラスト feat.NORA 6.MY ANGEL IS... (SUNNY SIDE '98) 7.EVERYTHIN' ALRIGHT feat.NAOKO 8.BREAK POINT(DUNGEON REMIX) feat.AKEEM,DABO,GOKU,K-BOMB,ZEEBRA 9.祈り(DJ'S PRAY)
★★★★★★★☆☆☆
デビューミニアルバム「PLAYGROUND」では現OZROSAURUSのMACCHOをレコーディングデビューさせ、外仕事ではHILL THE IQやEMBULLなどへの楽曲提供で知られるDJ SACHIHOの2ndフルアルバム。1998年10月21日発売。ちなみに一時期はタレント兼俳優としても活動していた。
ヘンテコな歌モノだらけだった彼の1stフルアルバム「1stdown」は彼の他の作品に比べても余りに酷い出来で、失望感と共にラックにしまったままだ。もう半永久的な眠りが確約されているだろう。この2ndアルバムにおいてもその音作りにはさして進歩は感じられず、全体としては釈然としない出来。
今回もまたキッチリ2曲収録されたシンガーとのコラボ(こだわりなのか?)は不要と言う他無い。特に「EVERYTHIN' ALRGHIT」の出来の悪さったら無い。松任谷由美の「ようこそ輝く時間へ」のメロディをサンプルしたベースが味わい深いトラックはDJ SACHIHOの手掛けた音の中でも良い部類のものなのだが、NAOKOなるシンガーの古臭いヴォーカルで台無しだ。このトラックこそHIPHOP畑の人間にやれば良かったのに。
盟友GOKUとの「MEDIALIEN」はタイトル通りのメディア批判ものだが、GOKUのラップはリリックもライムも平凡。なのに日本のHIPHOPには珍しい透明感のある声から吐き出される無機質な語感が気持ち良くて、不思議な魅力のあるラッパーだ。この後発表する1stソロアルバムではこの路線を行き過ぎて物凄く聴き辛い作品を出してたけど。NORAなるソロラッパーによる「ダブルコントラスト」は、トラックもラップも「悪名」収録曲の劣化版みたいで退屈。
全体として見るとまたしても不満のつらつら出てくるアルバムだが、この作品の肝はやはり「BREAK POINT」だろう。今では想像も出来ないようなメンツがストレートにマイクを回していく、隠れてない隠れクラシックの代表格。オリジナルでも十分イケるが、全体的にDJ SACHIHOの作るボトムにはどうもセンスがなくイマイチ古臭くてイモっぽさが漂う。クラシックとして紹介するのはやはりより一層レベルアップした「BREAK POINT(DUNGEON REMIX)」の方だろう。ダークなキーボードがそれぞれのラップを不気味に浮き上がらせていて素晴らしい出来。特に現在の知名度では劣るAKEEMとGOKUが頑張っている。AKEEMってこんなラップが出来たんだ。韻の配置も変則的で、それゆえ先鋒を任すに相応しい勢いを曲に与えている。ビフォアNITROとなるこの曲でのDABOは少し大人しい印象。そして意外にもこの曲で一番下手なのがKB名義で参加のK-BOMB。声もフロウも全く出来ておらず、正直ここで流れが滞るのは否めない。まぁその後に続く黄金期ZEEBRAがそりゃもうオットコマエなラップでケツ拭いてくれるから十分なんだけど。
「BREAK POINT」の存在が様々な所で伝承されていく一方で、DJ SACHIHO自身や彼のその他の曲、作品についてはほとんど語られないのが昔は不思議だったが、こうしてデビュー作から彼の音源を全て集めてみるとそれにも納得出来る。あまりトラックメイカーとしては花開かなかったようだ。それでも褒められながらも「いてもいなくても大丈夫」くらいのトラックメイカーが氾濫する中で、たったひとつ、これからも歴史に記される名曲を残した事は立派だろう。たったひとつ、どの世界でもそのひとつの功績が難しい。
1.イントロ 2.DAY feat.漢,O2,ILLMURA 3.チュウトロ 4.ダンスナンバー 5.アウトロ 6.ダンスナンバー inst ★★★★☆☆☆☆☆☆
2000年のB-BOY PARKのMCバトル準優勝のMOTOYがようやくリリースした1stEP。2004年3月29日発売。
なるほど、アングラを狙いすぎて外すとこうなるのか、とわかりやすく教えてくれた作品。当時のBLASTではILLMURAやMS Cruなど、正にこの作品に集まった面々と共によく取り上げられていて、ようやく日本でも成立しつつあった「アンダーグラウンド」の概念を背負って立つその急先鋒としてのリリースだったわけだが…。
ラップ入りなのは「DAY」「ダンスナンバー」の2曲だけで、それにインスト4曲付けて1365円という強気な商売には特にどうこう言うつもりは無い。問題はそのインストの質だ。この作品の音は全て「GOD BIRD」で有名なDJ HISAによるものなのだが、HIPHOPフィールドだけで生きてきたわけでもない事を誇示するように統一感の無い音を引っさげ挿入される一連のインストは、それぞれのタイトルから求められる「繋ぎ」の役割を全く果たしていない。こんな自己主張の強いインストがメインの2曲の倍あるわけで、どっちが主役かわからない。これなら値段も下げて潔くラップ入りの曲だけ発売すれば良かったのに。
期待の「DAY」でもDJ HISAの暴走は止まらない。ハードな打ち込みでやる気を出しすぎちゃったブレイクビーツが完全にラップを押しのけて前に出ていて、おかげで何度聴き込んでもラップが頭に入ってこない。豪華なメンツなのにただただ耳にうるさいだけの5分間が待っている。漢のリリック??ILLMURAのライム??O2のパンチライン??そんなもん何もわからないっす。この後出た1stアルバムではこの曲のバージョン違いが収録されているようなので、どうかそっちでは必要以上にハッスルした音が削ぎ落とされ、ラップの姿が見えるよう改善されている事を祈るばかり。
「ダンスナンバー」もHISAによる打ち込みではあるが、こちらは打って変わってシンプルな音作りで、ようやくMOTOYのラップに辿り着ける。がやっとまともにその姿を晒したMOTOYのラップは、フロウも平凡でリリックも光ったものはなく(これは曲の性質上仕方ないか)、何より滑舌が致命的に悪い。語尾をしっかり発音しないからどうにも締まりの悪いラップ。コンピアルバム「DIGGABLE001」収録の「ラブレター」の時はもっとマシだったような気がする。
別にカルトな魅力を感じるでもないジャケットも併せて、「今までの日本のHIPHOPとは違う」事を示そうとするあまり、奇を衒った飛び道具が全て不発弾と化した作品。ちょうど2009年11月発売のコンピアルバム「Christmas Raps」で久しぶりに音源を聴かせてくれる様なので、どうなっているのか楽しみなところ。まぁ全く才能がない人というわけでは無かったので、運悪くMS Cruの大躍進やNITROブームの波に呑まれ、あっというまにすっかり「あの人は今」状態になってしまったのは気の毒ではある。
1.地球人? 2.被害妄想 3.地球人?(Instrumental) 4.被害妄想(Instrumental) 5.Freestyle〜地球人?[Live] ★★★★★★★★★☆
MCU、VOICE、DJ TATSUTAの2MC1DJで成るRadical Freaksの、恐らく彼ら名義では唯一となる作品。1997年4月1日発売。ちなみに名作コンピレーション「悪名」収録の「地下室」で話題を集めた彼らだが、音源デビュー以前にはT-1(現TAICHIMASTER)も所属していたらしい。
「悪名」で様々なアーティスト達が断片を持ち寄り収斂したそのエネルギーが、この作品で結晶化した。断言しよう。このシングルに収録された2曲が、日本のHIPHOPが90年代に突き進んだホラーコアブームの到達点だ。「せんれい」なんかに代表される、初期我リヤの頭のネジが外れたようなコミカルさも中々に奇異だったが、それすら上回るこの2曲の気持ち悪さはもうそうそうあるもんじゃない。
しかもこれらのトラックを手掛けたのがあのDJ TATSUTAという事で更に驚いた。彼のソロアルバムで見せたあの引き算的な打ち込みトラックは薄っぺらいし耳に痛いしでかなり苦手だったのだけれど、現在のFGのイメージからは対極にあるような、こんな音も作れたのか。アンダーグラウンドにあるHIPHOPの音が一般大衆の目にも届くよう、陽のあたる場所に掬い上げて仕上げるのがFGのおおよその傾向だとすると、この作品でのTATSUTAの音は、ホラーコアの極限を目指してHIPHOPの音を更に深海へ落とし込んだような仕上がり。奇怪に動き回り耳を混乱させる上ネタと同じくらい、下で唸る作り込まれたボトムが、ラインを変えSEを挟んでは胃を鷲掴みにしようとしてくる。レビューのためにヘッドホンでずっと聴いてると本当に気分が悪くなってきた。音だけでも落ちるところまで落ちるので、これから正念場な受験生はくれぐれも聴かないように。
そこにこの二人のラップが乗るわけだが、その巧みなラップをまた暗黒面に使っちゃってるから更に曲は混沌としてくる。VOICEはまだいいとして、「地下室」でもそうだったが、MCUのドン引きしてもらってナンボみたいなホラーなラップは何なんだ。これでもかと声を震わせニヤニヤしたそのラップは、現在の彼のロウなスタイルとは似ても似つかない。あのクールなラッパーがこんなお化け屋敷ラップをしているなんて。家族連れのMCUに出くわしたリスナーが最も気を付けなければならない事は、間違っても彼の家族の前で「Radical Freaksの大ファンでした!!」と言わない事だろう。
曲の傾向としては2曲とも似たものではあるが、特に「地球人?」は宇宙人が地球に到着する様を自らの登場に見立てて描いているという、書いてる方が訳わからなくなりそうな設定なのだが、この気持ち悪いラップとトラックにそのシチュエーションがハマってしまうからよりタチが悪い。僕はTATSUTAが、MCUがこの作品以降どうなるかわかっている2009年の世界でこの作品を聴いているわけだからまだいいけれど、リアルタイムで聴いてた方にこの作品は本当に怖かったんじゃないだろうか。このグループは、日本のHIPHOPはこれからどうなってしまうのか。そんなモヤモヤした気持ちだけを抱かせて去っていくこの作品での彼らの存在のおどろおどろしさは、誤解を恐れずに言えば、身近な所に狂気を持った犯罪者が潜んでいる恐怖感にも似た、どうやっても払拭できないようなねっとりとした不安感を当時の日本のHIPHOPに植え付けたのではないだろうか(勿論彼らの目指した音楽的に、これは褒め言葉だ)。LITTLEとは別の意味で、KICKがあって本当に良かったね。御世辞にも上手いとは言えないMCののちE.S.G.「U.F.O」始め定番ネタに「地球人?」のラップを乗せていく「Freestyle〜地球人?[Live]」は、逆にそのお粗末さ故に彼らもまともな人間だったことを確認出来て安心するばかり。
1.INTRO 2.G・I・C・O・D・E 3.TO THE TOP 4.PRIVATE PARTY feat.Def Tech 5.WAAH WHO 6.JOHAN音頭 feat.Def Tech,MEGA-G,L-VOKAL,SYZA,AI,DOC D 7.WORLD FAMOUS feat.L-VOKAL,MEGA-G 8.STEP ON UP feat.SYZA,Def Tech 9.TAIM'AOUT 10.HOOD 37〔EPISODE 1〕 feat.SYZA 11.時限爆弾 12.ONE〔心一つMIX〕 13.THROW DOWN 14.DAY DREAM ARISTA PT.2
★★★★★★☆☆☆☆
Sphere Of InfluenceとSORA3000がタッグを組んだグループ、GICODEの1stアルバム。SORA3000率いるEDO(今作ではDef Tech,AI,SYZAが参加)とSphere率いるCIG(今作ではL-VOKAL,MEGA-Gが参加)のそれぞれのクルー名を繋ぎ合わせて、逆から読んでGICODE。2003年11月19日発売。
双方のクルーが抱えるメンバーの名前を見ればわかる通り、それぞれ今となっては成功を掴んだアーティストばかりが当時所属していて、この時からスキルとしても首領であるSphereとSORA3000が一番情けないことになっている。この二人のラップは単体では別に特段嫌いでもないのだが、このアルバムでは酷い。バイリンガルなんて便利な言葉を笠に、中身の無い英詩は小節を稼ぐ手段にしかなっていない。フロウもリリックも似たり寄ったりな二人なので、ヴァース担当のクレジットが入れ違えになっていても何の違和感も無く聴き過ごしてしまいそうだ。
そんな毒にも薬にもならないラップは、ほぼDOC Dによるメジャー感溢れるトラック(これがただの金ピカトラックじゃなくて中々良い)をまぁ無難に乗りこなしていて、本当は中身の無い英詩と相まって、さも「何かありそう」な大物感を醸し出しているのも確かではある。本当に日本のHIPHOPが何かやれそうだった当時のバブリーな雰囲気と併せて、時流に上手いこと乗って中高生を囲い込むのに十分なイメージ付けは出来ていただろう。ただ蓋を開けて冷静に聴いてみれば、中身は何も無かった。
そんな二人の無味乾燥なラップはマイクリレーもので受動的なメリットを生み出す。XBSのラップがいつも同じなのにNITRO作品のマイクリレーでは滅多に槍玉に挙げられないのと同じで、無難にマイクパスするその影の薄さは、後にそれぞれ成功を収めることになるクルー成員のラップを十分活かしている。SYZA(2009年10月、めでたくソロアルバムを発表)とMEGA-Gが全部持ってっちゃう、今見れば凄いメンバーの「JONAN音頭」や、ほぼL-VOKALとMEGA-Gの曲になった「WORLD FAMOUS」なんかは彼らの初期の声が聴ける事を除いても面白い曲だ。また、自分達のフィールドを用意してもらったDef Techがそのメロディセンスを遺憾無く発揮したチル曲「PRIVATE PARTY」は今作ベスト。例のベースラインを持ってきた「HOOD37(EPISODE1)」なんかのイケイケ感も悪くない。
二人だけの力で挑んだ曲に関しては取ってつけたような応援メッセージが胡散臭い「ONE (心一つMIX)」は、最後のやらせすぎな合唱も含めて「I Can」をあからさまに狙って外したような曲だし、銃声バンバン響かせながら「オレら壊れたガキの立場」と歌う「G.I.C.O.D.E.」はどう聴いても手を差し伸べる前に流れ弾当たるだろってな仕様だし、一人前のHIPHOP感を纏える雰囲気を持ったが故にメッセージソングで人間臭くなりきれない辺りが、結局勢いで誤魔化すしかなくてどれも一緒に聴こえる所以かな、とも思った。そして今年2ndアルバム(Q参加!!)をひっそり発売。
ただこの頃の日本のHIPHOP全体のやりすぎたラグジュアリー感の反動か、今の何でも手の届く範囲だけで済ませるのが好し、みたいになってるHIPHOPもつまらない。GICODEみたいに既に何でも手にしたかのように振る舞うのは今やると違和感があるけれど、アーティストは夢を持って挑んでいるんだろうからいつか辿り着きたいその夢を語ってもいいのに。その夢想すら「リアルじゃない!!」と切り捨てるくらいリスナーの寛容さが欠如してるなら、いよいよ動ける範囲の狭い肩の凝る音楽になるだけでしょ。
1 INTRO 2 PARTY FREAK 3 裏口 feat.SWANKY SWIPE 4 RAPPER'S HIGH feat.MASH 5 春の白昼夢 feat.HOME MADE 家族 6 ONE LOVE 7 新たな一歩…feat.SUPER TRASH 8 HERB `N' SPICE IN LIFE 9 WE MAKE MUSIC feat.HAB I SCREAM 10 INTERLUDE 11 THANKS 12 AFTER SUNDAY〜SUNSET REMIX〜 13 AIN'T GOT NO SOUL feat.ANTY the 紅乃壱
★★★★★★★★☆☆
元HOME MADE 家族のメンバーであるH.O.Z.E.とシンガーのRyu-Bから成るHBの2ndフルアルバム。2004年5月26日発売。
何せこのグループはH.O.Z.E.が上手い。緩急織り交ぜた矢継ぎ早に言葉が繰り出されるフロウは、今思えば「Whoa」の頃のSEEDAなんかにも通じるものを感じる。過度に強調された発音で発声される英語と日本語が混じったバイリンガルなリリックスタイルもかなりスムースに聴けるよう完成されており、失敗例がそこら中に転がる日本のバイリンガルラップの中でもそのレベルは抜けていると言えるだろう。かと思えば「Herb'N'Spice In My Life」では普通に聴けちゃうくらいバリバリのHIPHOP SOULを歌いあげたり、その多才ぶりには目を見張るばかり。
特にトイズファクトリー配給のアルバムにも関わらず草ネタ満載でお届けする序盤の完成度は特に凄まじく、初っ端で一気に畳み掛ける攻勢に圧倒される。1stからの付き合いであるRhemario A.Webberプロデュースによる「PARTY FREAK」にしても初期BESとH.O.Z.E.の高次元でのせめぎ合いが最高に刺激的なSwankyプロデュースの「裏口」にしても、ラップはもちろんのこと、HIPHOP的なブラックエッセンスを包含したままハイファイに仕立てられたトラック群のまとまりが、その裏に読み取れるギリギリの危なさにも関わらず彼女とでも聴けちゃうようなシャレたスタンスを確保している。DJ U-ICHI(HOME MADE 家族)、FORCE OF NATURE、Daisuke Imai、Hab I Scream、Sonpubなど多数のプロデューサーを迎えているにも関わらず、また決して純粋なラップアルバムとして一本道を突き進んでいるわけでもない多面的志向性にも関わらず、作品として見るときちんと纏まっているあたりHBのそのアーティスト的な感覚の鋭さには脱帽するしかない。ジャケやらブックレットやら、どの要素を切り取ってもシャレてて、そうしたそこかしこのセンスの良さと楽曲の水準を思えば、BuckwildやBush Babeesに認められるのも納得出来る気がする。
ポップなフィールドがこれほど勿体無いラッパーもいないと個人的に思うKURO以上にMICROが頑張ったチルソング「春の白昼夢」や、HABの名作「The Circle」の音をHB仕様に組み替えたような温かみある「WE MAKE MUSIC」も、その出来の良さに言及せずにはいられない。
まぁ「ONE LOVE」や「新たな一歩…」で自分を表現しようとするとどうしてもH.O.Z.E.のフロウが弱くなってしまう事や、決して悪くはないけれどここまで全く言及しなかったことから評価を推し量って頂きたいRyu-Bの必要以上の参加頻度など、残念な点もないわけではない。また、手の届く範囲で事を終えたハンドメイド感が気持ち良かったのに最後に仰々しく世界を憂いた「AIN'T GOT NO SOUL」でアルバムを締めてしまうのも違和感がある。
ただH.O.Z.E.の日本のHIPHOPでは稀少すぎる万能さや、そこから転じて何をやっても様になって高水準のものを送り出してしまうグループとしての感性の良さ、ウェッサイ以外のHIPHOPで彼女と何聴けば良いかわからず頭を抱えているリスナーも大喜びなハイセンスなアルバム形態は、そうしたマイナス要素を補って余りある。これまた現在ではほとんど話題に上がらないグループであるが、彼らを知らないリスナーは勿体無い、と心から思う。
1.いいの 2.ジゴロメン 3.レスキュー feat.DOHZI-T 4.ハンティング・ワールド feat.Cassete Vision(Little,Kreva,Cue,MCU,Voice,Sohjin,Channel) ★★★★★★☆☆☆☆
KICK THE CAN CREWとして活動し始めた頃にLITTLEが発表したソロデビューミニアルバム。1998年11月15日発売。
日本のHIPHOP界を代表する韻の上手さはこの頃から既に完成形。後々シリーズ化された「いいの」はリリックが丸々同じため、今になっては「Mr.Compact」や「聖者が街にやってくる」に収録されたヴァージョンを聴けば、2001年、2004年発売のこれらの音源で聴いてもまったく古臭さを感じさせないところにその韻の質の高さが伺える。ただそれを扱うラップスキルがまだまだ追い付いていない。この作品での「いいの」では発声も物凄く不安定、音も何度も外しそうになるわで聴いていてヒヤヒヤさせられる。
当時Radical Freaksとして活動し、名作「地球人?」を発表していたMCU、By Phar The Dopestとして「By Phar The Dopest」をリリースした直後であったKREVAと比べるとまだ経験が足りなかったのかもしれない。それでも圧巻の韻術を見せているわけだから逆に凄いとも言えるけれど。そんなMCUやKREVAを擁するRadical Freaks、By Phar The Dopest、そしてCHANNELとSOHJINによるINNOSENCEと共にジゴロにマイクを回していく「ハンティング・ワールド」は今から見れば最も気になる曲ではあるだろうけれど、ハッキリ言って資料的価値以上の何かは見出せない薄っぺらい出来。みんなこの頃から韻が上手いのは確かだけど。特にこの曲でしかマイクリレーものに参加していない(はず)Voiceのラップは、聴けること自体有難い上にこのメンツの中でも一際目立つくらい上手い。つくづく脱退が悔やまれる人。
「ジゴロメン」も曲としては面白みに欠け、今聴くと4曲中3曲には時代的なありがたみしか感じないが、唯一「レスキュー」はこれからも伝えていくべき名曲だろう。スケボーキングのSHIGEOとのただただ不快なカバーもあったが、原点であるこちらが圧倒的に素晴らしい。ブックレットを見るにLITTLEにラップを指導したらしいDOHZI-T(やっぱLITTLEにとっての彼は影響大きいんだね)を客演に迎え、DJ BASSがトラックを担当したZINGIスタイルでの一曲。視界が開ける様なDJ BASSの晴れやかな音の上で、DOHZI-TのHOOKが、LITTLEのラップが気持ち良さそうに駆ける。LITTLEのスキルの多少の不安定さも何のそのでライムが奔る。大好きな一曲だ。
「レスキュー」が無ければ本当に当時に思いを馳せながら懐古するしかないような出来、というのが正直なところだけれど、この曲の存在でこのミニアルバムは日本のHIPHOP史で見落とされてはいけない作品となったと言える。
ところで余談ではあるが、KICK THE CAN CREW絶頂期の頃に発表されたLITTLEの1stフルアルバム「Mr.Compact」にいくらか漂うハードコア臭にやられて「こっちがLITTLEの本当の姿だ!!」と叫ぶ方をたまに見かけるが、その「Mr.Compact」以前に発表されたこのミニアルバムを聴けば、やはりLITTLEの原点はここで、その道をまっすぐ行けばKICK THE CAN CREWの小さな喋り屋のポジションがあったことを理解出来るだろう。つまり「Mr.Compact」はKICK THE CAN CREWがあったからこそ対立軸として見せた合わせ鏡なのであって、故にあのアルバムだけが彼のキャリアで異質なのだ。
1.デリバリ− 2.のってって 3.チュ−トロ 4.カウントダウン 5.横浜が原産地 6.おまけ LIVE
★★★★★☆☆☆☆☆
2005年11月24日発売。かつてはINNOSENSEとしても活動し、FG Crewの一員として長いキャリアを誇るCHANNELのファーストミニアルバム。始めはライブ会場のみで販売していたものを、宇多丸に勧められて一般発売したものらしい。
彼のそのキャッチーかつ通りの良い高音ヴォイスでカツカツと踏んでいく様は、かなりFGの基本形らしいスタイルと言えるだろう。ユーモア溢れる言葉のチョイスで気楽に、時に大喜びで下ネタも交えてキックするリリックもまた然り。
ただこのミニアルバムでは、その長いキャリアで培われてきた全方向的な器用さが曲をあまりにも平凡なものにしてしまっている。特に忠実に脚韻を意識して踏んでいく方法は、打ち込みでもサンプリングでもミニマルに仕立てるFGのトラックメイカー達が用意した音の上ではひたすら凡庸さを積み上げるものでしかない。Rock-Teeによる「デリバリー」「ノッてって」は温もり溢れるハンドメイドな音が中々良いが、それはあくまでもラップに暴れてもらうアリーナとして一歩引いたところで用意された音である以上、その上で延々と一本調子のラップが続くとソロ曲としては聴いていて辛い。
マボロシとの「ブレーメン」やライムスターとの「ウィークエンド・シャッフル」でのCHANNELが輝いていたのは、決してこの作品をつまらなくしている韻に忠実な姿勢ではなく、耳に気持ち良い声が歯切れよく切りこんでくるそのフロウにこそあった。ラップのファクター全てに誠実なその意識は素晴らしいが、客演仕事で映えてこのミニアルバムがどうしようもなく平凡なのは自らの武器を選択し損ねたからだと気付くべきだ。今作では「ノッてって」にその切れ味の良さの片鱗を確認出来るが、まだまだ足りない。
音を変え手を変え攻めてきた「おまけ LIVE」がこの中で一番耳に楽しかったのはそういうわけだろう。実力あるMCであるのは間違いないのだから、韻にばかりそんなに執着せずにもっとフリーキーに暴れ回るべきだ。2008年に発売されたフルアルバムはまだ未購入だが、気持ち良さそうに飛び跳ねるCHANNELのフロウが詰まっている作品であることを願うばかり。
1.フロムNYシティ 2.フリースタイル 3.フロムNYシティ(カラオケ)
★★★★★★☆☆☆☆
映画「デトロイト・メタル・シティ」の主人公が所属するメタルバンド、デトロイト・メタルシティのライバルであるHIPHOPアーティスト、MC鬼刃名義で発売されたシングル。同映画の挿入曲として使用され、ラップはなぜかK DUB SHINEが担当。トラックはDJ OASIS作なので、メンバー的にはradio aktive projeqtの製作になる。2008年8月13日発売。
原作の漫画の面白さがあまりよくわからなかったので映画は見ていない。そのためこの曲が映画中でどう使われたのは知らない。まぁネタとして楽しむべき曲・企画である事は疑いようも無いので、こういう売り方に対してセルアウトがどうだとかこれで日本でHIPHOPはまた誤解されたとか熱弁を揮う真面目なリスナー(嫌味じゃないですよ)よりは、そういう喧伝活動をする気力の無い僕のようなダラけたリスナーの方が楽しみやすいものではあるのだろう。
でもなんだろう、そんなアレコレを差し引いても思ったより楽しめた。リリックは典型的なアメリカンギャングスタものを和訳したような、つまり一般人のステレオタイプとしてのHIPHOP像まんまの内容だし、韻なんてほんとに只の駄洒落でこれを純粋にHIPHOPの枠だけで捉えるなら無い方がよっぽどマシな踏み方だし、「 フリースタイル」でのK DUB SHINEの冒頭での「メーン」が狙ってるにしてもそこらの芸人よりサマになってないし。
これが大真面目に出されたものならそりゃもう酷評だっただろうけれど、最初からネタとして割り切って聴くとそんなに悪くない。むしろ「フロムNYシティ」でのDJ OASISのトラックは、先日こき下ろしたradio aktive projeqtのどの曲よりもカッコ良い。裏で時折かき鳴らされるギターリフはいらないけど、適度にチープな不穏な雰囲気はDJ OASISの1stアルバムに近いものがある。
日本のHIPHOPをデフォルメするために駄洒落として律儀に配置されている韻は、それがどんなにチンケであれ毎度毎度小節終わりにセッティングされている以上、愚直なまでの脚韻重視フロウを生み出す。要するに言葉ではなく音のみに注目すれば、いつものK DUB SHINEが聴ける。映画製作陣がコメディアイコンとして作り出した日本のラップ方法に、いつもワックMC切りに精を出しているK DUB SHINEが見事当てはまるのも皮肉ではあるが。
ネタとして発売された曲であることや最初から予想可能なデフォルメされた「日本語ラップ」であることなど、そうした要素を全部飲み込んだ上で聴けば、DJ OASISの働きもあって、まぁそんなに聴いた側が頭を抱えるようなどうしようもない水準ではないと思う。誰得な企画ではあるけれど。
1.RESPECT 2.飛行船 (SHIN mix) 3.解釈のHyjack 4.Don't runaway from love 5.飛行船(bonus track by DONI)
★★★★★★☆☆☆☆
K.O.D.P所属の、と言った方がわかりやすいのだろう、シンガーでありラップもこなすBOOを始めU-ZI(ラップ)、SHIN(DJ)の三人から成る大阪のグループ、S.B.S。これは彼らがGM YOSHIとの「Strong But Silence」を世に出す一年前、初の自身名義の音源として1998年4月21日に発表したミニアルバム。他のS.B.S関係の音源としてはこの作品以降に発売となった数枚のヴァイナル、S.B.Sとして初の曲であるThe Best Of Japanese Hiphop Vol.5収録の「SAD WORLD」の他、U-ZIのソロ曲が局地的なコンピアルバム「two-10 Studio」で数曲聴ける。BOOの参加作品についてはMURO周りの仕事を中心に改めて言うまでもないでしょう。しかし96年結成のグループである事を考えると、凄い速さで当時の大阪を一気に駆け上っていってたんだなぁ。
さて、このミニアルバム。まずこの濃厚なジャケットを見て直感的に何かくるものがあるかどうか。僕がこれからダラダラと書き連ねる駄文を読むよりも、恐らくはその本能の方がこの作品を理解する手がかりには成り得るのだろう。ファンクウィルスに感染してるリスナーならこのジャケットでおおよその内容は理解出来るだろう。いわゆる「古き良き」HIPHOPを何とかギリギリのタイミングでリアルタイムに詰め込む事の出来た、なるほどMUROに受け入れられるのもわかる作風だ。
声がくぐもりがちだったり決して良い録音環境ではないのに、そのラフさが転じてメリットとして生まれ変わるのがブラックミュージックの強み。彼ら自身その点を作品を作るにあたってかなり良く理解している。「RESPECT」なんてドラムとベースだけのトラックを背にBOOはゴキゲンに歌っちゃうわU-ZIは「SAD WORLD」よろしく例のボソボソニヤニヤしたフロウ(聴けばわかります)でキメちゃうわで、音楽構成としては凄くアンステイブルなのに、いざ評価するとなると「ぶっとくて素敵」の一言で好意的に評価出来てしまう。禁じ手の重ね技が得点になるのはこんなHIPHOPだけ!!
ただ構成方法としては音楽的に最悪かつHIPHOP的に最良の手法を用いる事が出来ているものの、爆発力という点では「RESPECT」はいまひとつ足りないし、続く「飛行船」も歌いっぱなしのBOOの存在感が前に出すぎて、穏やかなだけの音と合わせて彼の声がもたれてしまう。「Don't runaway from love」も「飛行船」と同じ理由で絶賛は出来ない。メッセージは良いのに。
逆にBOOが唯一ラップで切り込んでくる「解釈のHyjack」は、投げやりなホーンが効いたトラックの上での2MCの掛け合いが素晴らしい曲。他の曲で感じた「あともう一歩」を見事踏み出せている。存在感の無いトラックがDONIなる人物によって華やかに生まれ変わった「飛行船(bonus track by DONI)」も新機軸を見せるボーナストラックとしては申し分無いし、この曲以外全て自前でプロデュースした作品である以上、自分達の武器と課題を確認出来たという意味では十分なデビュー作と言えるだろう。このミニアルバムを踏まえてどのように進化していったのか、これ以降に発売となったヴァイナルオンリーの作品を探すのが今から楽しみだ。
あとスペシャルサンクス欄にSHING02とかDJ VADIMとか意外な名前が色々あって見るのが楽しい。
1. intro 2. 独壇場 3. ある愛の狂騒曲 4. 破壊的 5. 商人のブルース 6. 尻軽のメロディ 7. 美女と野獣 8. ダルマのテーマ 9. outro 10. 交差点in大阪 feat.韻踏合組合 11. 交差点in奈良 feat.LOW STYLERZ&HI KING
★★★★★★★☆☆☆
元韻踏合組合のOHYAが達磨様と改名し(現在は更に「だるまさん」に改名)、2005年3月18日に発表した1stフルアルバム。アルバムとしてのサイズは小振りながらも、音楽的向上心に溢れた聴き応えのある作品ではある。
韻踏脱退組のAKIRA,MINT,そして達磨様は韻を踏むことに際して、AKIRAはコミカルなフロウで、MINTは逆にノリとしてのフロウを押しつぶす事で、達磨様は抜けの良い声とリズミカルなフロウでそれぞれ韻の魅力を引き立てていた。この三者三様のライミングへのアプローチが、韻踏というグループの中では非常に個性的で楽しかったし、今なお脱退が惜しまれる理由でもあるだろう。AKIRAのソロ作は聴いていないのでわからないけど、2007年に世に出たMINTのソロアルバム「after school makin' love」は彼ののっぺり引き伸ばされたフロウとそれに強調される韻がサウストラックと妙な調和を生み出していて、今なお聴き飽きない良作だ。このアルバムでの達磨さんも、自身のリズミカルなフロウをソロでの転向を機に、よりダイナミックな方向へ向けている。
つまりそのリズミカルさがこの作品では突き抜けていて、歌い上げるフロウを多く取り入れることに。彼の聞き取り易い声と何度も言っているリズミカルさは、なるほど歌うことに対して普通のラッパーよりはだいぶ向いていると言えるだろう。そのフロウをラップに比重においた成功例としてMr.Fukusanの音の上でテンポ良く進める「ある愛の狂想曲」、歌に比重を置いた成功例として「尻軽のメロディー」を上げることが出来るだろう。「ブッサイクなダ ブラットみたい だからハイ 油取り紙」は笑った。これまで通りの押せ押せな路線としては「破壊的」も中々。
ただこれ以外は使いまわしの踏み方も多くてあまりピンとくるものはなかったし、「美女と野獣」はちょっと歌い上げ方もしつこくて聴き疲れてしまう。作品としては見るべきところは多く、さすがの地力も見せてくれたけど、その天性の声とフロウがあまりにも制限無く暴れまわっている様を見ると、やはりグループの枠内で好き放題する方が映えるラッパーかな、とも思った。それでもこれまでのキャリアに胡坐かいて殿様商売な作品を届ける一部のベテランよりは、事実おもろいもんを届ける事が出来ているのは間違いないだろう。ラストの交差点シリーズは、Satussyが渋いけどあくまでもオマケ。
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