そのことと前述の言動と結果が一致したことによる頼もしさが相乗して、本作でのAK-69はとにかくラップで唸らせてくれる。 "空気? 読む必要ねぇ どこでも持ち込む俺んたの流儀 ハリウッドでも日本にいるみたく振舞うぜよろしく"(「Hollywood」) "これともすれば国家問題だぜ 用意はいいか焦る首相"(「The Red Magic」)なんかのリリックは、いかにもハーコーラップらしい尊大なオラオラ感に加え、これらのラインをドカンと耳に押し込んでくるだけのラップの力強さをAK-69が備えたからこそ、強烈に印象に残ってくる。
地元のフックアップシットである「SOLDIER SONG」を除き、ANARCHYやMACCHOといったパワープレイ要員に限定したゲストラッパーも、それを更に補強するだけのパンチを真正面から打ってくる。「I.M.P.」でのANARCHYなんて、「24 Bars To Kill」でも一切魅力を感じなかった僕の中のANARCHY評を久方ぶりに上げてくれた。日本でラップスキルの極致に最も近い一人・MACCHOに至っては、過去最高の調子で飛ばす本作のAK-69すら食う勢いだ。OZROSAURUSの4th以降続く彼のハイトーンボイスは、徐々に洗練された結果、以前よりリリックが耳に届くようになったと感じるので個人的には大歓迎。
1.Triumphant Return 2.Guess Who's Back ? 3.Ding Ding Dong 〜心の鐘〜 4.Nobody Does It Better feat.DS455 5.Hardcore feat.Acura 6.Underground Kingz feat.M.O.S.A.D 7.Jap Ridaz feat.加藤条山 8.Heads Or Tails 9.Skit feat.DJ OLDE-E,MINISTA K.C.,EL LATINO,SATT 10.Rain Man feat.DELI 11.Remember Me 12.Keep Your Heads Up feat.YORK 13.The Secret Love 14.Take A Ride 15.The Honesty My Love Pt.III 16.One Way,One Mic,One Life feat.般若
★★★★★★★☆☆☆
オリジナルとしては四作目となる、AK-69が2008年に発表したアルバム。時に安定感、時に紋切型と評されるこの名古屋勢の似たりよったり感は今作でもバッチリ継承。DJ PMX作の「Nobody Does It Better」がモロに西ノリなこと以外は、ほぼ全てのトラックがサウスノリとなってます。ただ彼(彼ら??)のこうした本場寄りのスタイルはアーティスティック性の放棄なのではなく、決して譲る事の出来ない、僕が考えていた以上に(それは最早意地とも呼ぶべき)彼(ら)のアイデンティティだったという事を思い知らされました。それを最も具体的に示してくれたのが「Jap Ridaz」。尺八の竹琳軒大師範だという加藤条山を迎えて製作されたこの曲は、イントロで熱の籠った加藤先生の尺八が鳴り響きます。これはどう見てもありがちな和風トラックに仕上げられるんだろうな、と思っていたら、流れてきたのは尺八のワンループに無理矢理サウス式のビートを乗っけたインド人もビックリの力技トラック。その音の上で「日本人の凄さ」を説くリリックが展開するわけですから。つまり彼にとってのHIPHOPとは本場のメインストリームのそれが細胞にまで浸みこんでいて、それ以外でのHIPHOP表現なんて考えられないんですよ。あえて本場式の音の上でスピットする中でどれだけ日本人を貫けるか。これだって突き詰めれば一種のオリジナルなスタイルと呼んでいいと思います。更に「Ding Ding Dong 〜心の鐘〜」や「The Secret Love」なんかのタイトルだけ見れば一般人向けのヤワい曲にしか思えない曲まで、リリックこそ前向きなメッセージソング、ラブソングだけど、トラックはいつも通りのズンドコビーツで仕上げちゃう。アメリカの猿真似と纏めて切り捨てるのは簡単だけど、これはもうそんなありがちで紋切型の批判で切れるほどヤワな意地じゃない。ただこの意地が楽曲製作に100%影響してるが故にどの曲、アルバムも似た印象にしかならないのも事実。AK-69は、そして周辺の名古屋勢はこの意地と楽曲のバラエティさをいかに両立させるか。とんでもなく難しい事だけど、彼らが日本のHIPHOPのど真ん中に戻ってこれるかはこれが出来るかどうかに懸ってると思う。
あともう一つ、この意地でメッセージとしてのリリック性の貧困さを生んでしまっている。メッセージソングがその多くを占める今回のアルバムだけど、メッセージを発しておいて小節終わりの締めの言葉が毎回ありがちなHIPHOPスラングだけでは胸に響かない。特にムカつく対象への蔑み方が全部「マザファッカー!!」で締めちゃってて、いや、そこのユーモア性でリリシストかどうか決まるんだと思うよっていう。逆に自身の半生を綴る「Keep Your Heads Up」は既存のHIPHOP辞典に頼れず自身の言葉で語るしかないため、かなり聴き応えがありました。「One Way,One Mic,One Life」の般若のリリックなんかもすげーカッコ良いし、まだまだやりようはあると思う。今作はやっぱり今まで通り「安定してるけど良いのか悪いのかわからない」って感じ。でも要所要所でのメロディの取り方なんかにはセンスを感じるし、この意地を持ったままうまくバラエティを出せれば数段面白くなると思う。日本のHIPHOPアーティストの中では稀なほど精力的に活動してるし、期待したいです。