1.嘔吐
2.突然変異体
3.Tokyo Hustle
4.Choice Is Yours
5.Theme Song
6.奴隷
7.人間の条件
8.Silent Majority
9.I Blunt The Right Eye
10.Like A Long Cypher
11.新世紀の詩
12.いい時代
13.I Still Love Y.O.U.
★★★★★★☆☆☆☆
Piyo Londirtの1stフルアルバム。iTunesで2010年4月16日配信開始。
出鼻から歪なヴァイオリンの旋律に "お前 絶望がたんねぇよ" と感情を吐き捨てるようなPiyo Londirtの言葉が覆い被さる「嘔吐」(サルトルのオマージュ?)で幕を開ける本作。ここで凄いのはそのトラック以上に歪み揺れる、Piyoのラップのアクの強さなわけで。感情的な言葉にそのままの感情を乗せて歌うラップは、ある意味SEEDA以降の感情的なラップの究極的な形とも言えるのかもしれない。好き嫌いはかなり別れるだろうが、とにもかくにも、耳を持って行くインパクトのあるラップなのは間違いない。
どちらかと言えば、ソウルフルなホーンとフルートに助けられて決意表明するHIPHOP然とした「Tokyo Hustle」のような曲のクオリティが高い。それに倣ってラップの濃さをトラックで薄めた「Theme Song」なんかは、リリックも素直に耳に入ってくる。自分の出番でライブの客がはけて行き、めげそうになったところで一人の客が「響きました」と声をかけてくれる。そのために頑張れる。 "夢の続き" を聴かせるために苦難の日々を、今の自分をそのまま吐きだすこの曲での彼の姿勢は、とても実直で心に響く。
一方で終盤の3曲では真逆のことをやっていて、余すことなくドロッドロな感情をそのままラップでぶつけている。サビが頭から離れなくなる「いい時代」の、否応なく彼のパーソナルな領域に絡め取られる不気味な迫力はなかなかに凄い。
ところで、「人間の条件」は恐らくはアレントの著作からの影響で書いた曲だと思うが、そこから「Silent Majority」へと意識的に繋げたのなら、K DUB SHINEやそこらの自称社会派ラッパーの曲よりもずっと示唆に富んでいると思う。個人的にはあまり相容れない右寄りなリリックそのものはさておくとしても、全体主義から逃れ、人間の生活には人と人が言語を媒介して直接に協力する「活動」こそが至高であると説いたアレント『人間の条件』から、サイレントマジョリティに直接語りかけるこの流れは、狙ってやったのなら凄い。
全体としてはアクの強さが過ぎて、他のラップの構成要素が耳に入らなくなってしまっている曲もあり、ムラのある作品ではあるだろう。でも、本格的に政治を語ろうとしているラッパーは未だ稀有だと思うし、音楽性と共にその面で更に成長を続ければ面白いだろうな、と思う。